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神社建築の様式と意匠|平入と妻入で見分ける本殿 7 様式

ivory washi 背景に painterly な神社本殿の切妻造屋根(千木と鰹木)と奥に朱色鳥居シルエット。神社建築の様式のアイキャッチ画像

神社の境内に立ち、本殿の屋根を見上げたとき、「これは何造の様式だろう?」と気になったことはありませんか。神社建築には、神明造・大社造・流造・春日造・八幡造・住吉造・権現造といった主要な様式があり、それぞれに代表的な神社、屋根の形、装飾の意匠が結びついています。

この記事では、神社建築の様式と意匠について、神社本庁公式・文化庁データベース・各神社公式・建築辞典類を参照しながら、平入と妻入の見分け軸、神明造・大社造を古層の代表として関連づけて説明される諸様式、権現造などの複合型、比翼入母屋造・浅間造・日吉造の珍しい様式、千木・鰹木・破風・懸魚・蟇股・木鼻の意匠、檜皮葺・銅板葺・茅葺・柿葺の葺き材まで、順に整理します。

この記事のポイント
  • 神社建築の本殿様式は、屋根のどちらに入口があるかによって「平入」と「妻入」に大きく分かれます
  • 平入系の代表は神明造(伊勢神宮)・流造(賀茂神社)・八幡造(宇佐神宮)で、流造は現存する神社本殿のうちで最も数が多いと紹介される様式です
  • 妻入系の代表は大社造(出雲大社)・春日造(春日大社)・住吉造(住吉大社)で、古層の様式と関連づけて説明されることがあります
  • 権現造は拝殿と本殿を「石の間」でつなぐ複合型で、北野天満宮や日光東照宮の社殿で知られます
  • 千木・鰹木・破風・懸魚・蟇股・木鼻といった意匠装飾は、社殿の格と地域の特色を伝える要素です
  • 屋根の葺き材には、檜皮葺・銅板葺・茅葺・柿葺などがあり、地域や時代によって使い分けられてきました
  • 神社建築の全体の見方は『神社建築の見方ガイド』、千木と鰹木の深掘りは『千木と鰹木の意味』もあわせてご覧ください
目次

神社建築様式とは(平入と妻入で見分ける)

ivory washi 背景に painterly な横並び 2 領域の対比図解。左に平入の屋根(長辺側に入口)、右に妻入の屋根(妻側の三角破風に入口)、上空に朱色鳥居遠景。平入と妻入の見分け軸を象徴

神社建築は、本殿(神様を祀る建物)の屋根の向きや構造によっていくつかの様式に分類されます。一見複雑に見える様式の世界も、まず「平入(ひらいり)」と「妻入(つまいり)」という 1 つの軸で大きく二分すると、見分けの入口がつかみやすくなります。

神社建築様式は代表的な 7 種類と珍しい様式が存在する

本記事では、代表的な様式として、神明造・流造・八幡造・大社造・春日造・住吉造・権現造の 7 つを選んで整理します。これに加えて、地域限定・現存数が極めて少ない「珍しい様式」(比翼入母屋造・浅間造・日吉造など)も後半で取り上げます。神社建築様式の総数には数え方によって幅があり、研究者や事典によって 6 〜 20 種類以上と扱われる場合もあります。

平入と妻入|屋根のどちらに入口があるかで二分される

神社建築の最初の見分け軸が、入口(参拝者が建物に向かう面)が屋根のどちら側にあるかという視点です。屋根の長辺(平側)に入口があれば「平入」、屋根の短辺(妻側、三角の面)に入口があれば「妻入」です。

  • 平入(ひらいり): 屋根の長辺側(雨が流れ落ちる側)に入口がある形。神明造・流造・八幡造などが平入系の代表
  • 妻入(つまいり): 屋根の短辺側(三角の破風が見える側)に入口がある形。大社造・春日造・住吉造などが妻入系の代表

境内で本殿の前に立ち、屋根を見上げて「正面に三角の破風が見えるか、それとも横向きの軒が見えるか」を確認すると、多くの場合は平入か妻入かの判別の手がかりになります。これが様式分類の最初の入口です。なお、本殿が覆屋や塀の内側にある場合や、複合社殿の場合は、外観だけでは判別しにくいこともあります。

切妻造と入母屋造|屋根の形と本殿様式の関係

屋根の形そのものにも種類があります。基本形として「切妻造(きりづまづくり)」と「入母屋造(いりもやづくり)」を押さえると、神社建築の理解がしやすくなります。

  • 切妻造: 屋根が単純な山型(△)で、両端の妻側に三角の破風が見える形。神明造・大社造・流造・春日造・住吉造などはこの切妻造を基本としています
  • 入母屋造: 切妻造の四方に庇(下の屋根)を加えた複合的な形。権現造や寺院建築で広く用いられます

平入系の様式。神明造・流造・八幡造

ivory washi 背景に painterly な横並び 3 領域の図解。左に神明造(千木鰹木)、中央に流造(向拝)、右に八幡造(2 棟連結)、上空に朱色鳥居遠景。平入系の 3 様式の対比を象徴

平入系の様式は、神明造を古層の代表として、流造・八幡造などの諸形式が関連づけて説明されることがあります。神社本庁公式案内などでは、神明造を源流の一つとして平入系の展開を説明する見方が紹介されています。ただし、各様式の間に直線的な派生関係があると断定するのは難しく、地域や時代ごとの建築技法・信仰の文脈の中で形づくられてきた、と整理するのが穏当です。

神明造(しんめいづくり)|伊勢神宮に代表される平入の最古層

神明造は、伊勢神宮の正殿に代表される様式で、神社建築の最古層の一つとされます。屋根は切妻造の平入で、装飾の少ない素朴な構造、棟の上に乗る千木と鰹木、掘立柱(地中に直接立てる柱)が特徴とされます。伊勢神宮では 20 年ごとに正殿を造り替える「式年遷宮」が続けられており、神明造の形式と造営技術が継承されています。式年遷宮の詳細は『伊勢神宮の禁足地と参拝の見えにくい場所』でも触れています。

流造(ながれづくり)|全国で最も多いとされる平入の派生型

流造は、神明造を古層の一つとする流れの中で説明されることがある平入系の様式で、現存する神社本殿のうちで最も数が多いと紹介される形式です。屋根の前面(入口側)が長く伸びて、参拝者の頭上を覆う「向拝(こうはい)」を形成しているのが大きな特徴です。京都の賀茂御祖神社(下鴨神社)・賀茂別雷神社(上賀茂神社)の本殿が代表例として知られ、現存最古の神社建築の一つとされる宇治上神社本殿(国宝、平安時代後期)も流造系の系譜に位置づけられます。

八幡造(はちまんづくり)|2 棟連結の独特な平入形式

八幡造は、平入の本殿 2 棟(前殿と奥殿)を前後に連結し、その間に屋根の谷を作る独特の形式です。宇佐神宮公式では、神が昼は前殿、夜は奥殿に移るという特徴とともに紹介されています。大分県の宇佐神宮(全国の八幡宮の総本宮)や京都の石清水八幡宮の本殿が代表例として知られ、八幡宮の代表的な社殿形式として知られます。

妻入系の様式。大社造・春日造・住吉造

ivory washi 背景に painterly な横並び 3 領域の図解。左に大社造(高い屋根)、中央に春日造(小型+向拝)、右に住吉造(朱色柱の素朴な屋根)、上空に朱色鳥居遠景。妻入系の 3 様式の対比を象徴

妻入系の様式は、大社造の流れを汲む様式として、春日造・住吉造が説明されることがあります。いずれも古層の様式で、独特の構造を伝えてきました。神明系と同じく、直線的な派生関係というより、関連づけて理解される諸形式として捉えるのが安全です。

大社造(たいしゃづくり)|出雲大社に代表される妻入の最古層

大社造は、出雲大社の本殿に代表される妻入の様式で、神社建築の最古層の一つに数えられます。正方形に近い平面に、切妻造の屋根を妻入で乗せた構造で、屋根の中央に大棟、左右に大きな千木と鰹木が並びます。出雲大社の本殿(国宝、1744 年再建)は高さ約 24 m あり、現存する大社造の代表例として知られます。文化庁データベースでは、殿内中央には特別に太い柱(神聖視されてきた柱)が立つ独特の内部構造として説明されています。

春日造(かすがづくり)|小型で向拝を持つ妻入形式

春日造は、奈良の春日大社本殿(国宝、1863 年再建)に代表される妻入の様式で、大社造と比較すると小型で、土台(基壇)の上に建つ構造、屋根前面に「向拝」を持つ点が特徴です。春日大社では現在も 4 棟の本殿(第 1 殿から第 4 殿)が並んで建っており、それぞれが春日造で造られています。春日造は、春日大社を代表例として、全国の春日神社系統で広く分布する様式とされます。

住吉造(すみよしづくり)|内部 2 室の古い妻入様式

住吉造は、大阪の住吉大社本殿(国宝、1810 年再建)に代表される妻入の様式で、神社建築の最古層の一つとされます。内部が前後 2 室(内陣・外陣)に分かれている点が大きな特徴で、装飾の少ない素朴な切妻造、朱色の柱と白い壁の対比が独特です。住吉大社では、第一本宮から第三本宮までが直列に並び、第四本宮が第三本宮と並列に建つ、特徴的な配置をとっています。いずれも住吉造で造られています。

様式の古さと、建物そのものの古さは別の話

神社本庁の解説では、神明造(伊勢神宮)と大社造(出雲大社)を起点に、流造・八幡造や住吉造・春日造が派生した系統として社殿様式が整理されています。神明造・大社造は建築史でも古い様式に数えられますが、ここで一つ気をつけておきたいことがあります。「古いとされる様式」と「現に建っている建物の古さ」は、そのまま重なるわけではありません。伊勢神宮は 20 年ごとに正殿を造り替えるため、神明造という古い様式を守りながらも、建物そのものはいつも新しく保たれています。大社造の出雲大社も、現在の本殿は延享元年(1744 年)の造営です。

同じ大社造でも、島根県松江市の神魂神社(かもすじんじゃ)本殿は天正 11 年(1583 年)の再建で、文化庁のデータベースでは出雲国にのみ見られる大社造のなかで最も古い遺構と評価されています。心御柱に使われた古材には正平元年(1346 年)の墨書が残ると伝えられますが、これは柱の材の話で、社殿の再建は 1583 年です。そして、現存する神社建築そのものとして最も古いとされるのは、系譜のうえでは流造に位置づけられる京都府宇治市の宇治上神社本殿(国宝)です。細部の様式から平安時代後期とされ、部材の年輪年代の調査では 1060 年頃と報告されています。最古とされる様式の代表と、現に建つ最古の建物とがそろわないところに、神社建築を見るおもしろさがあると私は感じています。

複合と例外(権現造と珍しい様式)

ivory washi 背景に painterly な横並び 2 領域の図解。左に権現造の側面断面(拝殿+石の間+本殿の 3 連結)、右に比翼入母屋造(入母屋造の屋根 2 つ並列)、上空に朱色鳥居遠景。複合型と珍しい様式の対比を象徴

主要な平入系・妻入系の様式に加えて、複合的な構造を持つ権現造、地域限定や現存数の少ない珍しい様式があります。これらは神社巡りの楽しみを広げる存在です。

権現造(ごんげんづくり)|拝殿と本殿を「石の間」でつなぐ複合型

権現造は、本殿と拝殿を「石の間(いしのま)」と呼ばれる中間の建物で連結する複合型の様式で、江戸時代以降の代表的な複合社殿形式として知られます。京都の北野天満宮本殿(国宝、慶長 12 年(1607)造営、文化財 DB では 1606 年表記も見られる)・栃木の日光東照宮本殿(国宝、1636 年)が代表例として知られます。本殿・石の間・拝殿が一体となった豪壮な構造で、彫刻装飾も豊かに施されています。

権現造は徳川家のためだけに生まれた様式なのか

権現造という名前は、徳川家康を祀る日光東照宮のために生まれた徳川家の様式だ、と語られることがあります。ただ、社殿が造られた年をたどっていくと、その言い方だけでは足りない部分が見えてきます。京都市上京区の北野天満宮の御本殿(国宝)は慶長 12 年(1607 年)に造営されたもので、北野天満宮公式サイトはこの本殿を後の権現造の原形になったものと説明しています。一方、栃木県日光市の日光東照宮の主要な社殿は寛永 13 年(1636 年)、徳川家光による造営で、日光市公式サイトはこの東照宮によって権現造が完成したといってよい、と述べています。

年で見ると、北野天満宮の本殿は東照宮より 29 年ほど早い造営で、権現造の古い例の一つとされます。本殿と拝殿を石の間でつなぐ形式は東照宮より前からいくつかの社殿に見られ、様式の起こりを一つの神社に決めてしまえるわけではありません。とはいえ、東照宮が関わっていないという話でもありません。権現造という呼び名そのものが家康の神号「東照大権現」に由来し、この様式が全国へ広まる規範になったのは、各地に建てられた東照宮の造営が大きかった、と説明されています。私は、古い形は東照宮より前の社殿にすでに見られ、名前と全国への広まりは東照宮、という分かれ方で見ておくと、徳川家がゼロから生み出した様式だと決めてかからずに済むと考えています。

日吉造(ひえづくり)|日吉大社を代表する特殊様式

日吉造は、滋賀県の日吉大社の本殿に代表される珍しい様式で、母屋(中心の建物)の三方(正面と左右)に庇(下屋)が付く特徴的な構造です。日吉大社の東本宮・西本宮の本殿(いずれも国宝、安土桃山時代再建)が現存例とされ、ほかに例が少ない、日吉大社を代表する特殊様式として知られます。

比翼入母屋造・浅間造|日本唯一・現存 1 棟の特異な様式

比翼入母屋造(ひよくいりもやづくり)は、岡山の吉備津神社本殿・拝殿(国宝、室町時代)に見られる、入母屋造の屋根を 2 つ並べた珍しい様式で、日本で吉備津神社にのみ見られるとされる構造として知られます。浅間造(せんげんづくり)は、富士山本宮浅間大社の本殿(重要文化財、1604 年)に見られる、拝殿の上に流造の本殿が乗る重層構造で、浅間造の代表例として知られます。いずれも、その神社固有の歴史と信仰の文脈の中で形づくられた、貴重な様式です。

神社建築の意匠(屋根・破風・彫刻の世界)

ivory washi 背景に painterly な 2x2 の 4 領域図解。千木鰹木・破風懸魚・蟇股・木鼻の意匠装飾を接写、中央に朱色鳥居遠景。神社建築の意匠装飾 4 種を象徴

本殿様式の見分け軸を押さえたところで、次は社殿を彩る意匠装飾の世界を見ていきます。屋根の上、破風の周辺、柱や梁の彫刻には、それぞれに意味と歴史が重ねられてきました。

屋根の上や破風のまわりにある飾りには、それぞれ名前と意味があるのだろうか?

千木と鰹木|屋根頂部の象徴

千木(ちぎ)は、屋根の両端で交差する木材、鰹木(かつおぎ)は、棟の上に横たわる円柱状の木材で、いずれも神明造・大社造をはじめとする日本の神社建築の象徴的な意匠です。千木には先端を垂直に削った「外削ぎ(そとそぎ)」と水平に削った「内削ぎ(うちそぎ)」があり、鰹木の本数にも違いがあります。これらの形式と祭神の関係については、俗説と公式案内の整理を含めて『千木と鰹木の意味』で詳しく扱っています。

破風と懸魚|屋根三角面の装飾

破風(はふ)は、屋根の三角形の側面(妻側)を構成する板で、神社建築では破風板を彫刻で飾る例が多く見られます。破風の中央に吊り下げられる装飾を懸魚(げぎょ)と呼び、水に縁のある魚を象った火除けの意匠と説明されることがあります。懸魚の形には蕪懸魚(かぶらげぎょ)・三花懸魚・蕪三花懸魚など複数のバリエーションがあり、時代や地域によって異なる形が用いられてきました。

蟇股と木鼻|柱と梁の彫刻装飾

蟇股(かえるまた)は、梁の上に置かれる装飾的な部材で、その名のとおり蛙が股を広げた形に似ていることから名付けられたとされます。古くは構造材としての役割もありましたが、後の時代には彫刻装飾の対象となり、植物・動物・神獣などの意匠が施されてきました。木鼻(きばな)は、柱を貫く梁(虹梁など)の端部に施される装飾彫刻で、獅子・象・獏(ばく)などの形に彫られる例が多く、権現造などの装飾的な神社で特に豊かに見られます。

神紋・注連縄・朱色|社殿全体の象徴

社殿全体を象徴する意匠として、神紋(その神社固有の紋章)・注連縄(しめなわ)・朱色の彩色などがあります。神紋は屋根瓦や幕、提灯などに描かれ、その神社の系譜や信仰の特色を表します。注連縄は神域を示す結界として鳥居や社殿に張られ、朱色の柱は魔除けや神聖性を表す色として説明されることがあります。これらの意匠は、様式そのものとは別の層で、社殿の表情を豊かにしています。

屋根の葺き材(檜皮葺・銅板葺・茅葺の違い)

ivory washi 背景に painterly な 2x2 の 4 領域図解。檜皮葺・銅板葺(緑青色)・茅葺・柿葺の素材テクスチャを接写、中央に朱色鳥居遠景。神社建築の葺き材 4 種を象徴

神社の屋根は、葺き材(屋根を覆う材料)によっても表情を変えます。檜皮葺・銅板葺・茅葺・柿葺(こけらぶき)など、複数の伝統工法が現代まで受け継がれてきました。

葺き材特徴主な使用例
檜皮葺(ひわだぶき)檜の樹皮を薄く重ねて葺く日本独自の工法伊勢神宮・出雲大社・春日大社など主要古社
銅板葺(どうばんぶき)銅板を屋根材として使用し、耐久性や維持管理の観点から用いられることがある明治神宮など明治以降に創建・再建された社殿で用いられる
茅葺(かやぶき)茅(ススキ・ヨシなど)を厚く葺く自然素材の伝統工法山間部の古社・地方の小祠で見られる
柿葺(こけらぶき)サワラなどの薄板(柿板)を重ねて葺く工法金閣寺の屋根や一部の神社で見られる

檜皮葺|檜の樹皮を薄く重ねる日本独自の工法

檜皮葺は、樹齢の長い檜から採取した樹皮を薄い板状にし、何重にも重ねて屋根を葺く日本独自の伝統工法です。伊勢神宮・出雲大社・春日大社など、日本を代表する主要な古社の本殿で広く用いられてきました。檜皮葺は数十年ごとの葺き替えが必要で、技術の伝承そのものが文化財として重視されています。

檜皮葺が上、茅葺が下、という序列ではない

檜皮葺は多くの主要な古社で使われてきたため、葺き材には格の上下があって、茅葺は素朴で格が下だ、という印象を持たれることがあります。ただ、この見方だけでは説明しきれない例があります。神社のなかでも特別な存在とされる伊勢神宮の正殿(唯一神明造)は、今も茅葺(萱葺)の屋根を守り続けています。伊勢神宮公式サイトも、神明造の特徴として萱葺の屋根と、その上に置かれた鰹木を挙げています。

伊勢神宮の場合は、屋根材の格の高さよりも、古い高床の建築の姿を変えずに受け継ぐことのほうが大切にされている、と受け止めるのが穏当なのだろうと私は考えています。ですから、檜皮葺だから格上、茅葺だから格下、と一列に並べてしまうと、伊勢神宮という大きな例外を取りこぼすことになります。葺き材は格の順位というより、その社が古い姿を守ってきたか、時代に合わせてきたかの選択の跡として見ると、屋根の見え方も変わってきます。

銅板葺|檜皮葺より長持ちで明治以降に広がる

銅板葺は、薄い銅板を屋根材として使用する工法で、耐久性や維持管理の観点から用いられることがあります。明治以降、新たに創建された神社や、葺き替えの際に銅板葺へ移行した古社で広く用いられるようになりました。新しい銅板は橙色〜赤褐色を帯び、時間とともに緑青色へと変化していく独特の色合いの変遷も知られています。

茅葺・柿葺|自然素材の伝統葺き

茅葺は、ススキ・ヨシなどの草本植物を厚く束ねて葺く伝統工法で、山間部の古社や地方の小祠で受け継がれてきました。柿葺は、サワラなどの薄板を重ねて葺く工法で、寺社建築の一部で見られます。いずれも自然素材を用いた工法で、葺き替えのたびに地域の職人が技術を伝えてきました。

まとめ

神社建築の様式と意匠を、平入と妻入の見分け軸、神明造・大社造を古層の代表として関連づけて説明される平入系・妻入系の諸様式、権現造の複合型、比翼入母屋造・浅間造・日吉造の珍しい様式、千木・鰹木・破風・懸魚・蟇股・木鼻の意匠、檜皮葺・銅板葺・茅葺・柿葺の葺き材まで順に確認してきました。

境内で本殿の前に立ったとき、まず「平入か妻入か」を見て、屋根の形と装飾の意匠を読み取ると、その神社の系譜と地域の特色が立体的に見えてきます。様式の名前を覚えるだけでなく、なぜその形が選ばれてきたのか、どのような歴史と地域性が背景にあるのかを意識すると、神社巡りの楽しみがさらに広がります。

神社建築の全体的な見方は『神社建築の見方ガイド』、千木と鰹木の深掘りは『千木と鰹木の意味』、鳥居の様式分類は『鳥居の種類と見方』、神道全体の世界観は『神道の世界観とは』もあわせてご覧ください。

個別の様式の深掘りは、こちらから読み進められます。

よくある質問

神社の建築様式は何種類ありますか?
研究者や事典によって数え方に幅があり、6 〜 20 種類以上と扱われることがあります。本記事では、代表的な様式として 7 つ(神明造・流造・八幡造・大社造・春日造・住吉造・権現造)を選んで整理し、加えて比翼入母屋造・浅間造・日吉造などの珍しい様式も取り上げました。地域限定の様式や派生形を含めると、さらに数は増えていきます。
神明造と大社造はどう違うのですか?
もっとも大きな違いは、入口の向きです。神明造は屋根の長辺側に入口がある「平入」、大社造は屋根の短辺側(三角の妻側)に入口がある「妻入」で、参拝者から見た正面の屋根の形が異なります。神明造は伊勢神宮、大社造は出雲大社が代表例で、いずれも神社建築の最古層の様式に位置づけられます。
流造はどのような特徴を持つ様式ですか?
流造は、屋根の前面(入口側)が長く伸びて「向拝」を形成する平入系の様式で、現存する神社本殿のうちで最も数が多いと紹介される形式です。京都の賀茂神社の本殿などが代表例として知られます。流造が多い理由については、向拝を備えた実用的な形であることなどが説明されることもありますが、地域ごとの造営史や信仰の広がりも関わるため、単一の理由にまとめるのは避けた方がよいでしょう。
平入と妻入はどう見分けるのですか?
本殿の正面に立って屋根を見上げ、屋根の長辺(雨が流れ落ちる側、横向きの軒)が見えれば「平入」、短辺(三角形の破風が見える側)が見えれば「妻入」です。屋根の三角の頂点(破風)が参拝者の正面を向いていれば妻入、そうでなければ平入と覚えると分かりやすいでしょう。
蟇股・木鼻・懸魚とは何ですか?
蟇股(かえるまた)は梁の上の装飾部材、木鼻(きばな)は柱を貫く梁の端部の彫刻装飾、懸魚(げぎょ)は破風(屋根三角面)の中央に下がる装飾です。いずれも社殿の彫刻装飾として用いられ、特に権現造などの装飾的な神社で豊かに見られます。本来は構造材としての役割もありましたが、後の時代に装飾性が高まり、植物・動物・神獣の彫刻が施されるようになりました。
比翼入母屋造はどこで見られますか?
比翼入母屋造は、入母屋造の屋根を 2 つ並べた珍しい様式で、岡山の吉備津神社本殿・拝殿(国宝、室町時代)にのみ見られるとされる構造として知られます。全国唯一の様式とされ、吉備津神社を象徴する建築として知られます。
神社建築で現存最古の例はどこですか?
現存する神社本殿のうち最古の建築の一つとされるのが、京都府宇治市の宇治上神社本殿(国宝)で、平安時代後期の建立とされます。細部の様式からは 12 世紀前期、部材の年輪年代の調査では 1060 年頃とする報告があります。流造系の系譜に位置づけられる重要な建築で、世界遺産「古都京都の文化財」の構成資産にも含まれています。
権現造は徳川家康のためにつくられた様式ですか?
権現造という名前は、徳川家康の神号「東照大権現」に由来し、寛永 13 年(1636 年)造営の日光東照宮(栃木県日光市)で完成し、各地に建てられた東照宮を通じて全国へ広まったと説明されます。ただし、本殿と拝殿を石の間でつなぐ形式は東照宮より前からいくつかの社殿に見られ、慶長 12 年(1607 年)造営の北野天満宮御本殿(京都市上京区、国宝)は、北野天満宮公式サイトが後の権現造の原形になったものと述べる古い例の一つです。徳川家康のためにゼロから生まれたというより、古い形は東照宮以前からあり、名づけと全国への広まりが東照宮、と分けて捉えるのが実像に近いようです。
檜皮葺のほうが茅葺より格が高いのですか?
葺き材にはっきりした格の上下があるとは言い切れません。檜皮葺は多くの主要な古社で使われてきましたが、神社のなかでも特別な存在とされる伊勢神宮の正殿は、今も茅葺(萱葺)を守り続けています。伊勢神宮の場合は、屋根材の格よりも、古い建築の姿を変えずに受け継ぐことのほうが大切にされていると受け止められます。葺き材は格を測る物差しというより、その社が何を大切に守ってきたかを映すものとして見ると分かりやすいでしょう。

参考文献

一次資料(神社公式・神社本庁・公的資料)

  • 神社本庁公式サイト「神社建築」「神社のいろは」
  • 文化庁「国指定文化財等データベース」(国宝・重要文化財の神社建築情報)
  • 伊勢神宮公式サイト「神宮について」(神明造・式年遷宮)
  • 出雲大社公式サイト「御本殿について」(大社造)
  • 春日大社公式サイト「御本殿」(春日造)
  • 住吉大社公式サイト「住吉造について」
  • 賀茂御祖神社(下鴨神社)公式サイト「御本殿」(流造)
  • 宇佐神宮公式サイト「八幡造の本殿」
  • 吉備津神社公式サイト「比翼入母屋造の社殿」

補助参考(文化解説・辞書)

  • コトバンク / デジタル大辞泉「神明造」「大社造」「流造」「権現造」「破風」「懸魚」「蟇股」「木鼻」
  • Discover Japan「神社建築 6 つの様式」(渋谷申博監修)
  • Wikipedia「神社建築」(様式分類と現存最古例の補助参考)

本記事は、神社本庁公式・各神社公式案内・文化庁データベース・第三者の文化解説をもとに、神社建築の様式と意匠を整理したものです。各神社や地域によって取り扱う様式の名称や分類に違いがあるため、訪問先の案内も併せてご確認ください。

※ 本記事の画像はChatGPT 等の生成AIによる象徴的なイメージ画像です。実際の景観とは異なる場合があります。詳細は免責事項をご覧ください。

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この記事を書いた人

あやとき編集部は、40代の編集メンバーで運営しています。子を持つ親としても、一人の人間としても、暮らしに息づく神社との関わりを大切にしながら、全国の神社文化を丁寧に読み解いていきます。

神道や神社の奥深さを、専門用語に頼らず、どなたにも分かりやすい言葉でお届けします。読者の方と同じ目線で、共に学んでいく姿勢を基本としています。詳しくは運営者情報をご覧ください。

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