一粒の籾(もみ)が万倍に実る。一粒万倍日の名前は、この言葉から来ています。では、一粒の種もみからとれるお米は、実際には何粒くらいなのでしょうか。米穀安定供給確保支援機構の計算では、およそ400粒です。万倍には遠く及びません。
それでも、この日は「何かを始めるのによい日」として今も多くのカレンダーに刷られています。調べてみると、一粒万倍日は誰かがその年ごとに選んでいるのではなく、二十四節気の区切りと日の十二支の組み合わせで自動的に決まる日でした。国立国会図書館は、その割り当ての表を公開しています。この記事では、日の決まり方から借金が凶とされる理由、他の吉日と重なった日の読み方、そして神社参拝との関係までを順に見ていきます。
- 一粒万倍日は暦注のうち「選日」と呼ばれる欄の日で、六曜とは別の欄にあります
- 決め方は節切りの月と日の十二支の組み合わせ。国立国会図書館は2通りの選日法の表を公開しており、現在は両方を併用すると説明しています
- 産泰神社は、一粒万倍日は機械的に振り分けられており、縁起がよいことの科学的な根拠があるものではないと書いています
- 1粒の種もみからとれるお米は平均でおよそ400粒。1本の穂に実るのは約50〜70粒です
- 仕事始め・開店・種まき・出金は吉、借金と借り物は凶とされます。どちらも「増える」という同じ理屈から出ています
- 不成就日と重なった日の読み方は資料で割れます。福岡県神社庁は一粒万倍日が勝るとし、暦は一つの欄だけを見るのが正しい使い方だと書いています
- 資料が挙げる一粒万倍日の用途に参拝はなく、神社参拝によいとされてきた暦注は神吉日(かみよしび)です。産泰神社は、選日や六曜は神社と直接関係がないと明記しています
- いっぽうで一粒万倍日を授与や祈願の日取りに取り入れている神社もあり、扱いには幅があります
一粒万倍日は暦の「選日」という欄に書かれた日

先に結論をお伝えします。一粒万倍日とは、一粒の籾が万倍の稲穂に実るように、物事を始めるのによいとされる日のことです。国立国会図書館の解説「日本の暦」は、単に万倍日ともいい、仕事始め・開店・種まき・出金などがとくに吉だと説明しています。
カレンダーの日付の下に小さく刷られた吉凶の注は、まとめて暦注(れきちゅう)と呼ばれます。国立天文台の暦計算室は、暦注を「暦に付された、日の吉凶などを示す注釈のこと」と説明し、書かれる位置によって上段・中段・下段の三段に分かれるとしています。上段が干支、中段が十二直(じゅうにちょく)、下段がその他の吉凶です。
選日は六曜とも下段とも別の欄
一粒万倍日が載るのは、このうち選日(せんじつ)と呼ばれるまとまりです。国立国会図書館は第三章「暦の中のことば」で、六曜、中段、下段、そしてその他を別々の頁に分けており、一粒万倍日はその他の頁に並んでいます。同館は中段の十二直や下段に載る注も選日の一種だと書いているので、選日はその他の頁だけの言葉ではありません。選日に並ぶのは、一粒万倍日のほかに八専(はっせん)、十方暮(じっぽうくれ)、三隣亡(さんりんぼう)、天一天上(てんいちてんじょう)、不成就日(ふじょうじゅび)、庚申(こうしん)、甲子(かっし)などです。
ここが最初のつまずきどころだと思います。大安と一粒万倍日と天赦日を一列に並べて「どれが一番よいのか」と考えたくなりますが、この3つはそれぞれ別の欄に書かれた、決まり方も出どころも違う注です。六曜については『六曜とは』で扱っています。
読み方は「にち」と「び」の2通り
読み方も資料によって違います。国立国会図書館は「いちりゅうまんばいにち」と振り、精選版日本国語大辞典は「いちりゅうまんばいび」を見出しにしています。福岡県神社庁の暦の解説も「び」です。どちらかが誤りというわけではなく、暦の用語には読みが定まりきらないものがあります。国立国会図書館も、一粒万倍日の頁では「にち」、選日を紹介する別の頁では「び」と振っていて、同じ資料の中でも揺れています。
なぜその日が一粒万倍日になるのか

一粒万倍日は、節切りの月と、その日の十二支の組み合わせで決まります。国立国会図書館は「月と日の十二支の組み合わせを基としており、2通りの選日法があったが、現在では両者を併用している」と説明しています。産泰神社(群馬県前橋市)も、二十四節気と1日ごとに振り分けられた十二支によって決まるとしています。
国立国会図書館が公開している2通りの選日法
その割り当てが、次の表です。左の列の「節」は、その月が始まる二十四節気を指します。
| 節(この日から次の節まで) | 選日法(1)の十二支 | 選日法(2)の十二支 |
|---|---|---|
| 正月節(立春) | 丑 | 午 |
| 2月節(啓蟄) | 酉 | 寅 |
| 3月節(清明) | 子 | 卯 |
| 4月節(立夏) | 卯 | 辰 |
| 5月節(芒種) | 巳 | 午 |
| 6月節(小暑) | 酉 | 午 |
| 7月節(立秋) | 子 | 未 |
| 8月節(白露) | 卯 | 申 |
| 9月節(寒露) | 酉 | 午 |
| 10月節(立冬) | 酉 | 戌 |
| 11月節(大雪) | 亥 | 子 |
| 12月節(小寒) | 卯 | 子 |
百科事典マイペディアも「正月は丑、午の日、2月は寅、酉の日というように月によって違い」と書いており、2通りを合わせた形で説明しています。表の2列を合わせると、ひと月におおよそ4日から6日、1年でおよそ60日という産泰神社の説明とも数が合います。
自分の予定日が当てはまるか確かめる4段階
この表があれば、当年のカレンダーがなくても判定できます。手順は4つです。
調べたい日が、どの節に入っているかを見ます。区切りは毎月1日ではなく、立春や啓蟄などの節入りの日です。その年の日付は国立天文台が発表する暦要項で確認できます。
その日の十二支を調べます。年の十二支ではなく、日に割り当てられた十二支です。十二支は12日でひとまわりするので、暦や暦計算のページで確認します。
表の同じ行にある2つの十二支と見比べます。たとえば立春から啓蟄の前日までなら、丑の日と午の日です。
どちらかに当てはまれば、その日が一粒万倍日です。当てはまらなければ違います。判定に必要なのは、この2つの情報だけです。
市販の暦やカレンダーによって一粒万倍日の日付が食い違うことがあるのは、2通りの選日法のうち片方だけを載せている場合があるためだと考えられます。気になるときは、表の両方の列で確かめてみてください。日の十二支の数え方そのものは『干支とは』で扱っています。
ほかの選日も同じように日付から決まる
一粒万倍日の決まり方が分かると、同じ欄に並ぶほかの選日はどうなのかが気になります。国立国会図書館の同じ頁には、一粒万倍日を含めて10の選日の条件が書かれています。決め方の形で私なりに5つに分けてみました。国立国会図書館がこの区分を示しているわけではなく、こちらで並べ替えたものです。
- 月と日の十二支の組み合わせで決まるもの 一粒万倍日と三隣亡。三隣亡は1月、4月、7月、10月が亥の日、2月、5月、8月、11月が寅の日、3月、6月、9月、12月が午の日です
- 月の区切りから日数の間隔で配るもの 不成就日。月の日の十二支の五行の組み合わせを基準に、8日間隔で配当されます。基準に十二支が入るので前の区分とも重なりますが、表がひと月の日付で示されているのでこちらに置きました
- 六十干支の続いた区間で指定するもの 八専は壬子(みずのえね)の日から癸亥(みずのとい)の日までの12日のうち間日を除いた8日、十方暮は甲申の日から癸巳の日までの10日のうち五行が相剋になる日、天一天上は癸巳の日から戊申の日までの16日、大犯土と小犯土は庚午の日から丙子の日までの7日と戊寅の日から甲申の日までの7日です
- 六十干支のうち特定の1日を指すもの 庚申は57番目、甲子は1番目の日にあたります
- 節気を起点に数えるもの 三伏(さんぷく)。国立国会図書館はいろいろな選日法があるとしたうえで、一般的なのは夏至のあとの3回目と4回目の庚(かのえ)の日、立秋のあとの1日目の庚の日だとしています
どれも、その年に誰かが選んでいるのではなく、日付の並びから決まります。そして一粒万倍日は、建築関係の仕事を忌むとされる三隣亡と同じ組み合わせ方の中に入っています。吉とされる日も凶とされる日も、同じところから割り出されているということです。
一粒の籾は実際に何粒になるのか

ここで、名前の由来になった「万倍」を数字で確かめてみます。農林水産省は、こどもの質問に答えるページで1本の穂には約50〜70粒のお米が実りますと回答しています。稲穂1本では、まだ百粒に届きません。
ただし、1粒の種もみは1本の穂では終わりません。やまがたアグリネット(山形県)の解説によれば、1粒の種もみから苗が1本育ち、田植えではその苗を5本ほどまとめて植えて1株にします。1株は茎が増えて、秋には25本ほどの稲穂を実らせます。
米穀安定供給確保支援機構は、全国の平年収量から1粒あたりの収穫量を計算しています。1000平方メートルあたりの収穫量は玄米で535キログラム、1平方メートルの株数は17株ほど、玄米1粒の重さは0.0215グラムほど。ここから1株の収穫は約1400粒となり、1株が3.5粒の種もみから育つとして割ると、1粒の種もみからとれるお米は約400粒、つまり約400倍という数字になります。1株を何粒の種もみから育てるかは資料によって開きがあり、この試算は3.5粒として計算したものです。
一粒の籾が実際には四百粒ほどになると知って、私は万倍という言い方が数の話ではないのだと思いました。数えきれない大きさの言葉を選んでいるのは、それだけ増えてほしいという願いがそのまま日の名前になったからではないのかと考えています。
一粒万倍日に向くことと避けること

一粒万倍日に向くこととして挙げられるのは、仕事始め、開店、種まき、出金です。国立国会図書館はこの4つを名指しし、精選版日本国語大辞典も「開店や金貸しなど、事を始めるのに良い日とされ」と説明しています。福岡県神社庁の暦の解説は、種蒔・金銭貸出・地所・家屋・物を買取るのに用いて大利がある、良い事の始まりに用いる、と書いています。
反対に避けるものとして挙がるのが、借金と借り物です。国立国会図書館は「増える意味があるため、借金、借り物は凶とされている」と、理由まで添えて説明しています。精選版日本国語大辞典も「借金をするのに悪い日」としています。産泰神社は、借りたお金が万倍に膨れ上がるといわれている、と紹介しています。
- 吉とされるもの 仕事始め・開店・種まき・出金・貸付け・仕入れ
- 凶とされるもの 借金・借り物
並べてみると、吉と凶が反対向きの行いではないことに気づきます。お金を出すか、借りるか。どちらも増えるという同じ一つの理屈から出ています。
一粒万倍日が借金を凶とするのは、増えるという同じ理屈を裏返しただけです。私はここに、暦の吉凶が人の運を言い当てているのではなく、一つの言葉から筋を通して作られたものだということが出ていると思います。
ここで、よく見かける受け取り方にも触れておきます。一粒万倍日に買い物や投資をすれば、その分が大きくなって返ってくる、宝くじも当たりやすい。そういう紹介のされ方です。ただ、辞典と神社庁の説明を語尾まで読んでいくと、そこまで言い切っている資料が見当たりませんでした。精選版日本国語大辞典は「事を始めるのに良い日とされ」、百科事典マイペディアは種まきや貸付け、仕入れ、投資を挙げて「利益が多いとされる日」、福岡県神社庁は「大利があるといいます」。どれも人から伝え聞いた形で書かれていて、結果を約束する書き方にはなっていません。辞典の2つは、コトバンクに載っている本文で確かめたものです。
だからといって、根も葉もない話として切り捨てる材料も、同じ資料からは出てきません。一粒万倍日は今も国語辞典と百科事典の見出し語に載っていますし、福岡県神社庁の暦の解説にも選日の一つとして並んでいます。結果を保証する記述はない。それでも暦の区分としては今も使われている。資料を読んで私が受け取ったのは、この2つが同時に成り立っているということでした。
大安や天赦日と重なった日をどう読むか

検索でよく見かけるのが、吉日どうしが重なった日をいちばん強い開運日として紹介する書き方です。国立国会図書館と国立天文台、福岡県神社庁と東京都神社庁の解説を読むと、重ね合わせで強さを測る読み方は出てきません。
神社庁が書く「暦はよこ見」
福岡県神社庁は、暦の見方をこう案内しています。
我が国には、様々な吉凶日がありますが、六曜はもっとも使われています。「暦はよこ見」と言いまして、すべてを一度に見るのではなく、自分の好みに合った、一つの欄だけを見て吉凶を知るのが正しい使い方です。適度に反省・決意に当てることが大切です。
横に並んだ欄を一度に見るのではなく、一つだけ見る。吉日を足し算する読み方とは、前提が違っています。
不成就日と重なった日の扱いは資料で割れる
判断が分かれるのが、凶日とされる不成就日と重なった日です。一粒万倍日を紹介する記事には、この日は運気が下がると書くものがあります。いっぽう福岡県神社庁は「暦選日上同じ月日に一粒万倍日と不成就日とが重なる時は一粒万倍日(吉日)が勝るものとします」と明記しています。
どちらが正しいかを決める基準は、確認した範囲では見当たりませんでした。国立国会図書館は不成就日を「その名のとおり万事不成就の日」と説明していますが、他の注と重なった場合の扱いには触れていません。重なった日の読み方は、確かめた資料のあいだで分かれているということになります。
もっとも、重なった日への対処は勝ち負けを決めるやり方だけではありませんでした。大杉神社(茨城県稲敷市)は「開運カレンダー」に「吉日であっても下記凶日に当たる日は開運カレンダーには表示をしておりません」と注記しています。七社神社(東京都北区西ケ原)も、一粒万倍日限定の御朱印の案内に「不成就日と重なる日は記載しておりません」と書いています。
この2社は、どちらが勝つかを判定するかわりに、重なった日をはじめから一覧に載せていません。福岡県神社庁の「一粒万倍日(吉日)が勝る」という書き方と合わせると、重なりへの向き合い方は少なくとも2通りあることになります。確かめたのは2社ですから、どちらのやり方が多いのかまでは分かりませんでした。
天赦日は下段にある別の注
天赦日(てんしゃにち)は選日ではなく、下段に置かれる注です。国立国会図書館は「百神が天に会合し、天が万物を許す日であり、万事にわたって吉とする」とし、季節ごとに日が変わると説明しています。春は戊寅(つちのえとら)、夏は甲午(きのえうま)、秋は戊申(つちのえさる)、冬は甲子(きのえね)の日です。
福岡県神社庁は天赦について、他の凶日と当たっても忌むには及ばず万事吉だと書いています。同じ解説の中でも、重なりの書き方は注ごとに違います。一粒万倍日は不成就日と重なったときに限って勝ち負けが書かれ、天赦は凶日全般と当たっても忌まないとされています。年に数日しかないため、一粒万倍日と重なる日が話題になりやすいのだと思われます。
同じ行いでも選日ごとに扱いが分かれる
重なりの話をもう一歩進めると、同じ行いの扱いが選日ごとに分かれていることにも行き当たります。国立国会図書館の説明を、行いの側から並べ直してみます。この並べ替えは私がやったもので、原文の分類ではありません。
種まきは、一粒万倍日では吉に挙げられています。いっぽう大犯土と小犯土については「この間は土を犯してはならないとされ、穴掘り、井戸掘り、築墓、種まきなどの土いじりは慎む日とされた」と書かれています。同じ種まきが、片方では吉、片方では慎む行いです。結婚も似たところがあって、十方暮は「結婚、相談事に凶」、天一天上は「結婚は忌む」とされています。三隣亡は建築関係の仕事、八専は針灸や柱を立てることを忌むとされます。
並べてみて気づくのは、理由の置きどころが違うことです。一粒万倍日の吉凶は「増える」という言葉を行いにあてはめたものでした。ほかの選日は、土を動かす行いそのものや、日の干支の五行の組み合わせに理由を置いています。では種まきの日に一粒万倍日と大犯土が重なったらどちらを取るのかというと、その答えは国立国会図書館の頁には書かれていません。重なった日の判断材料は、ここでも暦の側の資料からは出てきませんでした。
神社参拝の日として見るとどうなのか

「一粒万倍日に参拝したい神社」という記事は数多くあります。ところが、資料が挙げる一粒万倍日の用途に、参拝は入っていません。同館が名指ししているのは仕事始め、開店、種まき、出金。福岡県神社庁のほうは種蒔、金銭貸出、地所や家屋や物の買取です。どちらにも参拝はありません。
参拝によいとされてきたのは神吉日
参拝に対応する暦注は、別にあります。神吉日(かみよしび)です。精選版日本国語大辞典は「陰陽道で、神社に参拝したり、神事を行なったりするのによいとされた日」と説明し、用例として鎌倉時代から室町時代にかけて成立した『拾芥抄(しゅうがいしょう)』を挙げています。神社にお参りする日を暦で選ぶなら、本来はこちらの欄を見ることになります。
ただ、神吉日という言葉は一粒万倍日や天赦日ほど見かけません。大杉神社は開運カレンダーで神吉日を「神様の加護を受け祈祷を受ける最良日」として載せていますが、市販のカレンダーで目にする機会は多くないというのが、資料を見て回った私の印象です。この差が、参拝の日を選びたい人を一粒万倍日のほうへ向かわせているのかもしれません。
神社側の案内は「直接の関係はない」と書いている
安産祈願で知られる産泰神社は、神職が書く記事の中で一粒万倍日を取り上げ、次のように書いています。
一粒万倍日などの選日や六曜の考え方は、神社と直接関係のあるものではありません。したがって、縁起が悪いといわれている日でも神社へお参りして大丈夫です。
そのうえで同社は、選日も六曜も古くから日本にあった考え方であり、せっかくの縁起のいい日だから神社にお参りしようという気持ちは今も昔もあるだろうとして、参考程度に考えるとよいと結んでいます。同じ記事には、一粒万倍日が機械的に振り分けられており、縁起がよいことの科学的な根拠があるものではない、とも書かれています。神社が出す資料としては、かなり踏み込んだ書き方です。
神社によって扱いに幅がある
では、産泰神社の書き方が神社側に共通する見解なのかというと、そうとも言えませんでした。公式サイトで暦の扱いを確かめられた神社を並べると、距離の取り方に幅があります。
- 大國魂神社(東京都府中市) 六曜について「いわば俗信ですので、実際の吉凶とはあまり関係がありません」と書いています。ただし、このページに一粒万倍日や選日の話は出てきません
- 大杉神社(茨城県稲敷市) 「開運カレンダー」を公開し、一粒万倍日を「一粒が万倍になるとされる祈願最適日」、神吉日を「神様の加護を受け祈祷を受ける最良日」と紹介しています
- 松陰神社(東京都世田谷区) 一粒万倍日と天赦日、寅の日、大安が重なる日を、お守りの頒布を始める日として告知しています。ただし頒布はその日以降も続き、一粒万倍日だけの頒布ではないと注記しています
- 七社神社(東京都北区西ケ原) 一粒万倍日に限った箔押しの御朱印を頒布しています
- 大前神社(栃木県真岡市) 一粒万倍日に限った御朱印とお守りを頒布し、一粒万倍日の一覧も公開しています
選日は神社と直接の関係がないと書く神社もあれば、授与の日取りに取り入れている神社もあるということです。確かめたのは産泰神社を含めて6社ですから、全国の神社がどちらに寄っているかまでは言えません。私は、どちらが正しいかを決める話ではなく、参拝先がその日をどう案内しているかをそのまま読めばよいのだと思っています。
参拝の日そのものの考え方は『神社参拝に良い日はあるのか』で、神社側の資料を横断して扱っています。
暦から外された注がなぜ今も残っているのか

吉凶の暦注は、明治の改暦のときに国の暦から外されています。国立天文台の暦計算室は「明治改暦においては、中下段の暦注は迷信に過ぎないとして、廃止されました」と書いています。暦注を割り当てる方法は撰日法(せんじつほう)と呼ばれ、中国から伝わった大唐陰陽書などがもとにされたとも説明されています。
それでも、吉凶の注が今も見当たらないわけではありません。福岡県神社庁は「暦について」で選日の解説を出しています。天赦、社日、庚申、一粒万倍日、不成就日、三隣亡が並んでいます。確かめたのは同庁のページで、ほかの県も同じかどうか、明治から今日までどう受け継がれたのかまでは見ていません。少なくとも今の神社界の資料に、吉凶の注は載っているということです。
東京都神社庁は、十二支に動物の名前があてられた理由を説明したうえで、「このことがのちにさまざまな迷信を生む原因ともなったようです」と書いています。暦を配りながら、行きすぎた読み方には距離を置く。神社界の資料を読んでいると、この二つが同居しているのが分かります。
では、神社が出している一粒万倍日の一覧は、その神社が自分で割り出しているのでしょうか。大前神社は一覧を公開したページに「大前暦は神宮館の暦を用いています」と書いています。暦の出版元が出した日付をそのまま使っている例です。本文で見たとおり選日法は2通りあり、どちらを採るかで日付の数が変わります。神社が出す一覧であっても、もとにしている暦がどれかによって中身は変わります。
よくある質問
- 寅の日や巳の日と一粒万倍日では、どちらがよい日ですか?
国立国会図書館や神社庁の暦の解説には、吉日どうしに順位をつけた説明は見当たりませんでした。神社の側では、大杉神社が天赦日を暦の中で最も強い吉日とし、産泰神社も天赦日を最上の吉日として紹介していますが、どの吉日がどの吉日に勝るかを一覧にした資料はありませんでした。寅の日と巳の日は日の十二支そのもので決まる日、一粒万倍日は節切りの月と日の十二支の組み合わせで決まる日です。福岡県神社庁は、暦は一つの欄だけを見て吉凶を知るのが正しい使い方だと書いています。並べて強さを比べるより、自分が気にしたい欄を一つ決めるほうが、暦の本来の読み方に近いといえます。
- カレンダーによって一粒万倍日の日付が違うことがあるのはなぜですか?
国立国会図書館は、一粒万倍日には2通りの選日法があり、現在では両者を併用していると説明しています。片方の選日法だけを載せている暦があれば、日付は当然少なくなります。また、月の区切りが毎月1日ではなく立春や啓蟄などの節入りである点も、食い違いが起きやすいところです。気になるときは本文の表で両方の列を確かめてみてください。
- 一粒万倍日にお金を下ろしたり財布を使い始めたりするとよいと聞きますが、暦にはそう書かれているのですか?
国立国会図書館が挙げているのは仕事始め・開店・種まき・出金で、出金は含まれています。福岡県神社庁も、金銭貸出や地所・家屋・物を買い取ることに用いるとしています。ただし、国立国会図書館と福岡県神社庁の解説には、財布の新調や宝くじの購入を名指しした記述はありません。いっぽう産泰神社は財布の購入や新調、宝くじの購入を取り上げたうえで、一粒万倍日は機械的に振り分けられたもので、縁起がよいことの科学的な根拠があるものではないと書いています。
まとめ
この記事では、一粒万倍日の決まり方から、他の吉日と重なった日の読み方、神社参拝との関係までを確かめました。
- 一粒万倍日は暦注のうち選日の欄にある日で、六曜(別の欄)や天赦日(下段)とは決まり方も出どころも違う
- 決まり方は節切りの月と日の十二支の組み合わせ。国立国会図書館は2通りの選日法を表で公開し、現在は両方を併用すると説明している
- 読み方は国立国会図書館が「いちりゅうまんばいにち」、精選版日本国語大辞典が「いちりゅうまんばいび」で割れている
- 1本の穂に実るのは約50〜70粒、1粒の種もみからは平均で約400粒。万倍という言い方は数の話ではないと私は受け取った
- 仕事始め・開店・種まき・出金は吉、借金と借り物は凶。どちらも「増える」という同じ理屈から出ている
- 不成就日と重なった日は、運気が下がるとする記事と、一粒万倍日が勝るとする福岡県神社庁とで判断が割れる。同庁は「暦はよこ見」=一つの欄だけを見るのが正しい使い方だとしている
- 資料が挙げる一粒万倍日の用途に参拝はなく、参拝によいとされてきた暦注は神吉日。産泰神社は、選日や六曜は神社と直接関係がなく参考程度に考えるとよいと書いている
- ただし神社側の扱いには幅がある。大國魂神社は六曜を俗信とし、大杉神社・七社神社・大前神社のほうは一粒万倍日を授与や祈願の日取りに取り入れている(確かめたのは産泰神社を含めて6社。産泰神社は直接の関係はないとしている)。松陰神社は一粒万倍日と天赦日などが重なる日をお守りの頒布開始日に選んでおり、その日以降も頒布は続く
- 同じ欄に並ぶ10の選日はどれも日付の並びから決まる。私の分け方では、一粒万倍日は建築の仕事を忌むとされる三隣亡と同じ組み合わせ方に入る
- 吉凶の暦注は明治の改暦で国の暦から外されたが、福岡県神社庁は今も選日の解説を出している
次に一粒万倍日という言葉を見かけたら、その日の十二支を調べて、本文の表と見比べてみてください。当年のカレンダーがなくても、節と十二支の2つだけで判定できます。暦にはほかにどんな欄があり、神社が出す暦がそれをどう扱っているかに興味が出てきたら、『神社参拝に良い日はあるのか』が次の入口になります。
参考文献
公式資料(公的機関・神社庁・神社・公益法人)
- 国立国会図書館「日本の暦」吉凶を表す言葉④その他(一粒万倍日の選日法の表・不成就日・選日の一覧)
- 国立国会図書館「日本の暦」吉凶を表す言葉③下段(天赦日ほか下段の注)/同 ①六曜/同 ②中段
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki 暦注」(暦注の三段・撰日法・明治改暦での廃止)
- 福岡県神社庁「暦について」(暦選日の解説・一粒万倍日・不成就日・天赦・暦はよこ見)
- 東京都神社庁「神社Q&A 暦(2)」(十二支と動物の名前・迷信について)
- 産泰神社「一粒万倍日とは?」(決まり方・神社との関係・してはいけないこと)
- 大國魂神社「六曜の吉凶について」(六曜は俗信という記述)
- 大杉神社「開運カレンダー」(一粒万倍日・神吉日の説明/凶日と重なる日を表示しない注記)
- 七社神社「一粒万倍日 限定御朱印」(不成就日と重なる日は記載しないという注記)
- 大前神社「一粒万倍日御朱印と一粒万倍守のご案内」(大前暦は神宮館の暦を用いているという記述)
- 松陰神社(東京都世田谷区)「一粒万倍大黒守 頒布開始のお知らせ」
- 農林水産省「1本のイネの穂には、何粒くらいお米が実りますか。」
- 米穀安定供給確保支援機構「1粒のお米から、どのくらいのお米がとれているのですか?」(PDF・令和3年10月14日更新)
- やまがたアグリネット(山形県)「一株の稲からどのくらいの量の米ができるのですか。」
補助参考(辞典・読者の疑問)
- 「一粒万倍日」精選版 日本国語大辞典・百科事典マイペディア(kotobank 掲載)
- 「神吉日」精選版 日本国語大辞典(kotobank 掲載)
- Yahoo!知恵袋に寄せられた一粒万倍日と日取りに関する相談(読者の疑問の把握に用いた)
本記事は、2026年9月16日に国立国会図書館・国立天文台・農林水産省・山形県・米穀安定供給確保支援機構の公開資料と、福岡県神社庁・東京都神社庁および神社6社(産泰神社・大國魂神社・大杉神社・松陰神社・七社神社・大前神社)の案内、辞典類を確認し、一粒万倍日の選日法と吉凶の内容、神社側の扱いを本記事独自に整理したものです。日の吉凶の受け取り方は暦を出す側や地域によって異なることがあります。お金の貸し借りや契約などの判断は暦ではなく条件でお決めください。実際にお参りされる際は、参拝先の最新の案内をご確認ください。
